危機は続く
昨年夏からお伝えしてきた通り、ハワイのコンドミニアム(マンション)保険危機は突然始まったものではありません。保険会社の撤退、保険料の高騰、さらにAOAO管理費や特別徴収の増額が続き、「現状維持」にも大幅なコスト増を強いられています。
1年が経過した今、その影響は未だ収束していません。そして、保険問題は、戸建てにも波及してきています。屋根や設備の老朽化などへの厳格な審査、そして場合によっては契約更新が拒否される例も出ています。
これは「コンドの問題」だけではなく、ハワイ全体の不動産市場、買い手・売り手・コミュニティのすべてに関わる大きな問題です。
何が変わったのか?上院法案1044(Act 296)の現実
2025年7月8日、ジョシュ・グリーン知事がSenate Bill 1044(現296法)に署名しました。これはハワイの保険市場の不安定さに直接対処する法律といえます。一部のコンドミニアム管理組合が、まったくハリケーン保険を付帯できない状況に陥ったこと、また500%以上の保険料のアップを強いられた管理組合、そして、特別徴収や管理費の増加で、特にシニアや住宅ローン利用者の負担が深刻化しています。
Act 296で何ができるようになったのか?
今回の取り組みを簡単に言うならば、ハワイ・ハリケーン救済基金(HHRF)を再稼働させよう、という試みです。
1990年代以降休止していたHHRFを復活させ、2つ以上の民間保険会社からハリケーン保険を断られたコンドやタウンハウスの管理組合(AOAO)に対して援助を行います。
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ハワイ州保険協会(HPIA)の役割拡大:
民間保険会社でカバーできない場合、HPIAが基本補償を提供するための新しい手段を追加。 -
コンドミニアムローンプログラムの創設:
必要な修繕資金を確保できる新しいローン制度。これによって保険料の軽減や契約維持も見込めます。 -
包括的な調査の義務化:
州保険コミッショナーが市場安定化の長期的解決策を検討・提案することが義務付けられました。
提供される補償の種類
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HHRFが提供するのは「1,000万ドル超」の損失に対するハリケーン保険のみ。
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「一次保険」(1,000万ドルまで)は民間保険会社から確保が必要。
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申請は必ずライセンスを持つ保険プロデューサー(代理店/ブローカー)を通じて行うことが必要。
対象
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少なくとも2社からハリケーン保険を断られたAOAO(管理組合)
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合計被保険価額が1,000万ドルを超える建物
「万能薬」ではない現実
一部の管理組合が、HHRFを活用して最大70%もの保険料削減を実現した事例が出ています。申請受付はすでに開始されています。詳細は公式サイトにて。
ただし、この法律で「全てのコンドミニアムの保険料が自動的に安くなる」わけではありません。
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小規模・築古の物件や、そもそも民間で保険契約できるコンドは恩恵が少ない。
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「一次保険」(1,000万ドルまで)は依然として高額であり、限られた民間市場に頼る必要がある。
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ラグジュアリー物件は対象とせず、平均的なコンドミニアムを想定した法律。
とはいえ、「保険再契約不可」という最悪の事態を防ぎ、競争原理による保険料の抑制効果も期待できます。
実際の現場:オーナー・バイヤーへの影響
特別徴収・管理費アップ:
高額な保険料や補償ギャップを埋めるため、オーナーへの負担増が継続
保険会社の撤退:
コンドプロジェクトが補償から外れるケースもあり、管理組合は短期間で新たな保険を確保する必要に迫られますが、費用や条件は以前より厳しくなっています。
戸建てにも波及:
今年は、屋根や設備の老朽化を理由に契約更新を拒否された戸建てオーナーの例も増加。保険会社は点検や審査を強化しています。
2025年不動産所有オーナー、また購入を検討されている方へのアドバイス
コンドオーナーの方へ:
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AOAOがHHRFや新しいローンプログラムを検討しているか、確認しましょう。
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管理費の増加や特別徴収の可能性も視野に入れ、理事会で積極的に質問を。
戸建てオーナーの方へ:
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屋根や配管・電気系統などのメンテナンスは早めに。
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保険更新は余裕を持って見積もり・相談を。
購入・売却を考えている方へ:
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エスクロー前に現行保険状況を必ずチェック。
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エスクロー期間中、AOAO書類(M1条項)を十分に確認しましょう。取引に入る前の事前下調べはマストです。
昨年から、多くのコンド・戸建てのご相談に対応してきました。情報共有、迅速な行動が重要です。
Act 296(SB1044)は一歩前進ですが、保険の状況は今後も読めません。
購入・売却戦略についてご不安があれば、いつでもご相談ください。